日本ではインバンドが大変盛り上がっていると聞くと同時に、「オーバーツーリズム」という言葉も最近よく耳にするようになりました。
さて、こちらイタリアは、まさしく「オーバーツーリズム」の最先端を行く国。良くも悪くもポストコロナの今、世界各国からの旅行客がイタリアに集まっています。特に最近は世界情勢の影響もあり、伝統的に昔から多いドイツをはじめ、フランス、オーストリア、ポーランドなど、比較的アクセスしやすい近隣の欧州各国からの観光客で各地はごった返しています。更に、遠路はるばる大西洋を越えてやってくる、特にトスカーナ地方が人気のアメリカは一時、情勢の不安定さや物価高で観光客が減るかも、と噂がありましたが、蓋を開けてみると変わらず、多くの旅行客が押し寄せています。イタリア観光の経済を支える主役、お金をたくさん落としてくれるアメリカからの観光客も引き続き安定を保っており、さすが世界に誇る観光国イタリアだと圧倒されるばかりです。
しかし、これほどまでに世界中から人が押し寄せると、当然その裏には「影」も生じてきます。それが「オーバーツーリズム」、日本語で観光公害というらしいです。
きらびやかな観光都市の舞台裏では、行きすぎた観光客の増加に伴い、もともとその土地に平穏に暮らしている市民の声が聞こえてくるのです。
その観光大国として悲鳴とも言えるこの「オーバーツーリズム」に対して、2年前に考案されたヴェネツィアの入島税は記憶に新しいです。ヴェネツィアといえば、冬に美しい仮面舞踏会の衣装をまとった人々が集まる”カーニバル”でも有名なところですね。

冬のヴェネツィア。夏は暑いし、おすすめシーズンは11月か1月で、ゆっくり散策できる。ホテルもリーズナブルです。
このヴェネツィアの入島税は、世界で初めて日帰りの観光客から「街への入場料」を徴収するという大胆な試みで、具体的には、特に混雑する時期の「日帰り観光」を対象に、事前予約で€5〜10(約900〜1800円)の支払いを義務付けるというものです。このニュースが出た頃は、「ヴェネツィアがディズニーランド化された」、なーんてジョークも耳にしたことがあります。ちなみにこのシステム、一般の旅行者はネットで事前に支払いを済ませ、入場用のQRコードを取得する仕組みになっているらしいです。私はまだやってみた経験がありません。
そして、このテーマパーク化の波は、ヴェネツィアに限った話ではなく、最近のトレンドとして、今まで無料に入れた歴史的遺産や名所が有料化していく現象です。
その一つに、ローマの「パンテオン」。私がローマで大好きなスポットの一つで、昔はいつでもふらっと無料で足を踏み入れることができたところなのです。今は混雑緩和や維持管理のため、3年前から一律€5の入場料が徴収されるようになりました。

ローマ。パンテオンPantheon 外観は、わ〜古そうだな〜というのが印象なのですが、その中に入ると本当にすごい。
建物の中は、大きなドームの天井。そしてその真ん中に、ぽっかりと丸い穴が空いています。そこから真っ直ぐに太陽の光が差し込んでくる様子は、本当に神秘的。

パンテオンPantheonの建物内
西暦120年頃に再建されているらしいですが、これが2000年も前の建物なんだ、と思うと本当に息を呑んでしまいます。

パンテオンPantheonの建物内。太陽の光が入る。
こういった歴史的名所へのアクセス有料化は、貴重な文化財を守るためには仕方のないこと。かつて当たり前だった「旅の日常」が少しずつ姿を変え、どこも全て金を払わなければ歴史に触れられない場所になっていくのが、今のイタリア観光界隈のトレンドです。
こういった状況の中、旅行者のお財布が痛むくらいなら、まだマシなのかもしれません。ヴェネツィアのようなオーバーツーリズムが、ひいては街の”テーマパーク化”として究極の形で行き着くと、そこに暮らす地元市民の平穏な日常はどうなってしまうのか。その究極を見たのが今年の2月に訪れたヴェローナの冬季オリンピック閉会式かもしれません。
当日は、厳重なセキュリティーのために市内中心部が完全に封鎖。フェンスの中にあるお気に入りのカフェやレストランは、厳重なチェックのせいで一般の人は、実質的に近づくことすらできません。私が思うに、セキュリティー圏内にある飲食店は実質オリンピックの日だけ休業を余儀なくされたかと。。。

フェンス越しにみる会場。VIPや、記者、当日のチケットを持っている人たちは中に入れる。
華やかな世界的大イベントの裏で、地元の生活が完全にシャットアウトされる光景を目の当たりにし。道をぶらぶらすると、バルコニーにこんな旗も。。↓「TOURISTS GO HOME(観光客よ、家に帰れ)」。

もちろん、観光業を生業として食べている人たちにしてみれば、コロナ禍のように観光客がゼロになってしまったら生活が立ち行かないし、かと言って、観光とはまったく関係のない仕事をして暮らしている人たちにしてみれば、生活圏に押し寄せる大量の観光客や、イベントによる街の制限は迷惑なものでしかないのも事実。何事もバランスが重要なんですね。

ぎりぎりフェンスの手前で営業できるレストラン。
ということで、ヴェネツィアの入島税やパンテオンの有料化は、そんな終わりのない葛藤のなかで、街が必死に生き残ろうともがいているサインなのかもしれません。
私は久しく日本の京都や奈良に行っていませんが、このような観光で最先端を行く今のイタリアを見つつ、自分たちもかつてそこにあったノスタルジックな情緒に思いを馳せながら、今後一体どんな街の在り方が必要なのか見ていく必要があるかもしれません。
(おしまい)
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