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イタリアワインを語る前に、まず”農業”を語るの巻ー3「欧州グリーンディールとイタリア農業の今」編

「衣食住」と、日本語ではよく言ったもので、この3つは生活に必要最低限のものです。前回2回連続の投稿であった通り、イタリアにおいて、農業は重要な産業の一つ。当たり前のことですが、人々が食べていくことは、生きていくために不可欠であり、ひいては国の安全保障の観点からも重要ですね。

【前回の記事はこちら↓↓↓↓↓↓↓】

まず、イタリアの田舎に行って驚くのは、農業が職業として定着している地域が多いということ。小さな家族経営の農家さんや酪農家さん、畜産農家さんが、それぞれオリーブ、果樹、野菜、ワイン、チーズ、サラミなどの地域ブランドを生み出し、それで生計を立てています。最近ではアグリトゥリズモといって農業と観光を合体させたビジネスも盛んです。こちらでは「農業は一つの専門職」という社会的な位置づけがかなり強いと感じます。

けれど、こうした一軒一軒の農家の営みも、イタリア一国だけで完結しているわけではありません。イタリアはEU加盟国であり、農業政策は前回紹介した、フランスが主導して創設されたEU共通の農業政策(CAP)という枠組みの中で進められています。その方針はEUの機関(主にブリュッセル)で決められ、イタリアもその影響を受けています。 次の章では、昔からあるCAPに新しい方向性を持ち込み、近年大きな議論を呼んでいる「欧州グリーンディール」と、その中心にある「Farm to Fork戦略」について見ていきます。

イタリアのコンバイン(収穫機)の前面に取り付ける”トウモロコシ用ヘッダー”。アメリカのは見たこないけど、イタリア製もビックサイズ!

欧州グリーンディールとFarm to Fork戦略とは何か

欧州グリーンディールは、平たく言うと”環境を守りながら、ヨーロッパの経済も成長させていこう”というEUの大きな政策です。2019年に、発足したばかりの新体制の欧州委員会が看板制作として打ち出しました。その目標は、2050年までに気候中立(温室効果ガス排出実質ゼロ)を実現すること*1。深刻化する気候変動や、自然の豊かさが失われつつあることへの危機感が、この政策を後押ししたとされています。しかし、実際の農業の現場との距離が広がってしまうことになるのです。

この「気候中立」というのは、つまり昔は「環境を守ると企業は儲からない。経済成長とは両立できない」と考えられていましたが、逆の発想をし「環境対策に投資すれば、新しい産業や雇用が生まれ、ヨーロッパの競争力も高まる」よね、省エネ技術、循環型経済、建物の省エネ改修、持続可能なモビリティ、農業・食、生物多様性、汚染ゼロなどに投資すれば、新しい産業が育ち、雇用が増え、世界で競争力を持てるようになるよね、と環境を守ることをコストではなく、未来への投資と考え始めました*2

手前にはブロッコリー畑。奥にはブドウ畑が広がる。

そして、この欧州グリーンディールの中で農業・食料分野を担うのが「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」です。欧州委員会は2020年5月20日にこの戦略を発表し、持続可能な農業への転換を目指すため、次のような目標を掲げました*3。

・2030年までに化学農薬の使用量とリスクを50%削減
・2030年までにEU農地の25%を有機農業へ転換

ここで注目したいのは、いずれも現在のところ「目標」であって、「法律」として義務付けられたものではないという点です。 しかし、上記1番目の「2030年までに化学農薬の使用量とリスクを50%削減」については、これを法的拘束力のあるEU規則(SUR規則案)にしようとする動きがありました。しかし、この後、農家の猛反対を受けて頓挫することになります。 この頓挫した案は、かなり踏み込んだ内容でした。EU全体で50%という目標自体には拘束力を持たせつつ、加盟国ごとの個別目標には一定の幅を持たせる設計で、たとえばイタリアには、基準期間比で農薬全体62%減、危険性の高い物質は54%減という、EU平均を上回る国別目標が想定されていました*4。その経緯については、後ほど詳しく見ていきます。

傾斜で駐車。大丈夫かな。。

有機農業では、実はイタリアが既にトップランナー

ここで面白いのが、イタリアの立ち位置です。上記2番の「25%を有機農業に」という目標に対して、2024年時点でのイタリアの有機農地比率はすでに20.2%に達しています。これはスペイン(12.3%)、ドイツ(11.5%)、フランス(9.9%)を大きく引き離す数字です。しかもイタリアは、EU全体の期限である2030年より前倒しし、2027年までに25%達成を国内目標として掲げています*5。

なぜイタリアの数字がここまで大きいのか。筆者が思う理由は、国内でオーガニック食品への需要が高いことや、有機認証が輸出競争力を高める付加価値として広く受け入れられていること。さらに、南部に多いオリーブなどの樹木作物は、もともと有機栽培と相性がいい土地柄であること。そこにEUの支援もうまく活用しながら有機農業を推進してきたことが、今の数字につながっているのだと考えています。

つまりイタリアは、「押し付けられたから嫌々」ではなく、もともと得意な分野ではむしろ自分から先頭を走っている、という一面を持っているのですね。

イタリアの田舎の農業資材店。家庭菜園用にもグッツがびっしり棚に並ぶ。

 

 

EUが掲げた理想、農家が直面した現実

ここで、話を欧州グリーンディールに戻します。 前の章で紹介したように、EUが2050年の気候中立を掲げる成長戦略・欧州グリーンディールの中で、農業・食料分野を担うのが「Farm to Fork戦略」でした。農薬の使用削減や有機農業の拡大といった目標が、CAP(共通農業政策)の環境要件やSUR規則案という具体的な制度・ルールとして農家に求められるようになると、「理念には賛成だが、このままでは経営が成り立たない」という不満が各国で高まっていきます。 さらに、肥料や燃料価格の高騰、EU域外から輸入される安価な農産物との競争も重なり、農家たちの不満は限界に達しました。 その不満が一気に噴き出したのが、2023年末から2024年初めにかけてヨーロッパ各地で起きた「トラクター抗議」です。

このニュースは業界の中では連日のように報じられ、筆者自身も実際にデモの一部を目にしたことがあるので、今でもとても印象に残っています。では、実際に何が起きたのでしょうか。

事の発端はドイツ

2023年末、ドイツ政府が財政難を理由に、農業用ディーゼル燃料への税優遇や農業用車両の自動車税免除を縮小すると発表すると、農家が猛反発。12月には300台以上のトラクターがベルリンのブランデンブルク門に集まり、年明けの1月に入ると約5000台のトラクターと1万人を超える農家が首都を埋め尽くしました。 この動きはすぐにフランスへと広がります。 フランスでは、肥料や燃料価格の高騰に加え、EU域外から流入する安価な農産物との競争や環境規制への不満も重なり、1月末にはトラクターがパリへ通じる主要高速道路を封鎖する「パリ包囲」と呼ばれる大規模な抗議へ発展しました。そして同じ頃、オランダやポーランド、ベルギーなど、ヨーロッパ各地でも同じようにトラクターによる抗議が広がっていきます。

1月末から2月にかけて、その波はイタリアにも及びます。ミラノ近郊を皮切りに、北部から南部まで各地でトラクターによるデモが相次ぎました。 思い思いの横断幕には、農家の切ない思いが書かれたメッセーが並びます。

“L’AGRICOLTURA È VITA NON SI TOCCA” (農業は私たちの命。軽々しく変えるな)

https://www.ilpost.it/2024/02/02/proteste-agricoltori-italia-richieste/  [当時の様子のサイト記事] 

“NO FARMS, NO FOOD,  NO FUTURE” (ファームがなければ、食べ物もない。未来もない)

https://www.milanotoday.it/foto/cronaca/protesta-trattori-melegnano-foto-lapresse/#protesta-trattori-foto-lapresse-3.html  [当時の様子のサイト記事] 

と書かれた横断幕がひらめく光景。 これらのメッセージには、当時の農家たちの切実な思いが表れていたように感じます。 「農薬を減らして収穫量は維持できるのか」「病害虫が発生したらどう対応すればいいのか」といった現場ならではの不安。そこに当時の燃料や肥料の価格高騰、安価な輸入農産物との競争の要因が重なります。

2024年2月1日、ブリュッセルでEU首脳会議が開かれるのに合わせ、ベルギー、フランス、イタリアなど各国から集まった約1000〜1300台のトラクターがEUの中心地に集結しました*6。藁の山に火が放たれ、警察との衝突も起こるなど、ドイツで始まった抗議は、わずか2か月足らずでEU全体を揺るがす出来事へと発展したのです。 トラクター抗議は、欧州グリーンディールそのものを終わらせたわけではありません。しかし、この出来事をきっかけに、EUは「理想だけでは農業政策は進められない」という現実に向き合うことになります。

その結果、農薬の使用量削減を法的に義務付ける予定だったSUR規則案は撤回されるなど、Farm to Fork戦略の一部は見直されます。一方で、有機農業の推進や環境に配慮した農業への支援など、実現可能な取り組みは現在もCAP(共通農業政策)の補助金制度などを通じて続けられています。

つまり、欧州グリーンディールがなくなったわけではなく、農業分野ではアクセルを少し緩め、現場とのバランスを取りながら政策を進める方向へと舵が切られたといっていいでしょう。

農業資材店の店先では、さくらんぼ、モモ、ブドウといった果樹のポット苗木が売られている

EUの中のイタリア農業

生きていくために欠かせない、ごく当たり前で大切な営みである「農業」。そのあり方をめぐって、ブリュッセルの会議室からトラクターが集まった欧州の地域まで、さまざまな立場の人たちが議論を重ねています。 EUは27か国からなる共同体。それぞれの国に事情があり、考え方も違う以上、「これが正解」という答えを見つけるのは簡単ではありません。

イタリアもまた、その中で自国の農業に合った道を模索し続けています。これからEUの農業政策がどのように変わり、それにイタリアがどう向き合っていくのか、筆者も現地にいる限り、その様子を追いかけていきたいと思います。

(END)

参考資料: 

*1) 2050年気候中立。欧州グリーンディールの目標:  https://commission.europa.eu/strategy-and-policy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en (欧州委員会公式ページ)

*2)グリーンディールの投資分野。省エネ・循環経済・建物・モビリティ・農業/食・生物多様性・汚染ゼロ:  https://commission.europa.eu/strategy-and-policy/priorities-2019-2024/european-green-deal_it  (欧州委員会イタリア語公式ページ)

*3) Farm to Fork戦略。2020年5月20日発表、数値目標:

https://www.consilium.europa.eu/en/policies/from-farm-to-fork/ (EU理事会Consilium公式ページ)

*4)  イタリアSUR規則案 国別目標(62%/54%):

https://feder.bio/cambiamoagricoltura-no-pesticidi-si-biologico-23-settembre-tutti-bologna-festeggiare-bio-chiedere-rapida-approvazione-del-regolamento-ue-pesticidi-sur/ (FederBio(全国有機農業連盟)

https://www.cambialaterra.it/2022/09/taglio-pesticidi-ue-perche-gli-obiettivi-non-sono-uguali-per-tutti/ (Cambia La Terra)

*5)  イタリアの有機農地20.2%、2027年目標:

https://agronotizie.imagelinenetwork.com/agricoltura-economia-politica/2026/01/13/biologico-italia-sempre-piu-vicina-alla-soglia-ue-del-25-della-sau/88719  (Agronotizie)

*6 )デモ、2024年2月1日   https://www.quotidiano.net/esteri/bruxelles-mille-trattori-hlwzn6z3  (Quotidiano.net)

https://www.ansa.it/sito/notizie/mondo/2024/02/01/bruxelles-assediata-da-mille-trattori-lue-sbaglia-_365da597-1466-4678-98fb-9f97f32585aa.html  (ANSA伊主要通信社)

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イタリアワインを語る前に、まず”農業”を語りたいの巻ー2 イタリア篇

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イタリアにおけるワインを綴る前に、先ずはワインが食品である事、そしてワイン造りが農業の一部であることが大前提なことを触れておこうと思います。

この回では、イタリアにおいて農業はなにか、現地で感じたことも交えて写真と一緒に書いていきます。前後篇の2回に分けてお届けしますので、ぜひあわせて一読くださると嬉しいです。

前回の記事はこちら↓↓↓↓


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では、イタリアは何で勝負しているのか。ここからが、イタリア農業の面白いところです。

その答えの一つが、DOP・IGP(原産地呼称)制度。





イタリア農業の強み

このDOP・IGP(原産地呼称)制度は、日本でいうと「夕張メロン」や「神戸ビーフ」のように、決められた地域で、決められた基準を満たしたものだけが、その名前を名乗れる制度、と考えるとイメージしやすいかもしれません。ただし、DOP・IGPはさらに厳格で、特にDOPでは原料の産地から製法まで細かく定められています。

つまり、食品が「どこで」「どのように」作られたのかを保証し、その土地の気候や風土、伝統的な製法まで含めて守ろうという欧州共通の認証制度なのです。

イタリアは、この制度を最も積極的に活用している国でもあります。2025年時点でDOP・IGPの登録数は897品目と欧州で断トツの1位*。2位フランス(775)、3位スペイン(393)を大きく引き離し、EU全体の登録数(3,484品目)のうち約4分の1を、イタリア一国が占めています。チーズや生ハム、オリーブオイル、バルサミコ酢など、世界中で知られる数多くの食品が、この制度によって保護されています。

スーパで売っている”パルミジャーノ・レッジャーノ”のパッケージ。 原産地呼称保護を示す赤いマーク、D.O.P.(Denominazione di Origine Protetta)が付いている。正真正銘、本物の伝統的な特産品である証。

つまり、イタリア農業の強みは、その土地だからこそ生まれる価値を守り、ブランドとして世界へ届けること。それこそが、イタリア農業らしさなのかな、と私は思っています。

こっちにいると普段「その訛りならローマ出身?」「ナポリ?」などという会話をよく耳にします。同じ州でも町が違えば料理も少しずつ違う。それぞれが、自分たちの土地に強い誇りを持っています。

イタリアには、そんな土地への愛着を表す「カンパニリズモ(Campanilismo)」という言葉があります。日本語に訳すと地元愛とか、愛郷心。

そんなイタリアだからこそ、「その土地で作られたものだけが、その名前を名乗れる」というDOP・IGPの考え方も、ごく自然に受け入れられているのかもしれません。

サラミや生ハムの薄切りプレート

このDOP・IGPという仕組みは、地元の人よりも、その土地を知らない人のためにこそ力を発揮するのかなと思います。

地元の人にとっては、生まれた頃から食べてきた「いつものチーズ」「誰々さんの生ハム」。

一方で、海外の人にとっては彼らの土地への誇りを読み取る共通言語、そんな役割をこの制度は担っているのかもしれません。

当たり前ですが、チーズも、生ハムも、オリーブオイルも、そしてワインも、その土地の気候や風土、そしてそこで暮らす人たちの営みの中から生まれているもの。作物を育てて、その土地そのものを育てていく毎日のサイクル。農業とは、生活であり、文化であり、経済だと思うこの頃です。

参考資料:*ISMEA-Qualivita”XXIII Rapporto Ismea-Qualivita 2025″
https://www.cronachedigusto.it/scenari/rapporto-ismea-qualivita-2025-dop-economy-in-crescita-vale-207-miliardi-di-euro/

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イタリアワインを語る前に、まず”農業”を語るの巻ー1 欧州篇

イタリアにおけるワインを綴る前に、先ずはワインが食品である事、そしてワイン造りが農業の一部であることが大前提なことを触れておこうと思います。

この回では、イタリアにおいて農業はなにか、現地で感じたことも交えて写真と一緒に書いていきます。前後篇の2回に分けてお届けしますので、ぜひあわせて一読くださると嬉しいです。

ヴェネツィアのキャベツ畑

農業大国の欧州

欧州と聞いて、なだらかな緑の丘陵に牛がのんびりと草を食む、そんな牧歌的な風景を思い浮かべる人は少なくないでしょう。

実際、そのイメージは決して間違いではありません。ヨーロッパは世界有数の農業地域であり、その背景には戦後の歴史があります。

第二次世界大戦後、欧州各国は深刻な食料不足を経験しました。この反省から、食料自給率の向上と農家の所得を保障することが重要な政策課題となり、その議論を長年リードしてきたのがフランス。

実際、農業産出額(2024年)*1を見てもフランスが894億ユーロで断トツの首位、僅差でドイツ(755億ユーロ)、イタリア(754億ユーロ)、スペイン(675億ユーロ)が続いています。

ちなみに、この政策は1962年に創設された「共通農業政策(CAP: Common Agricultural Policy)」というものです。話が長くなるのでご興味のある方はネット検索やwikipediaを覗くと面白いと思います。

さらに面白いのが、欧州全体が「連合体」として機能していることです。一国だけであらゆる食料を効率よく生産するのは難しいので、気候や風土の異なる加盟国が、それぞれ得意分野を活かしながら域内で補完し合っています。

例えば、デンマークでは酪農や畜産、オランダは園芸が盛んです。フランスやポーランド、ルーマニアでは穀物生産が大きな役割を果たし、地中海性気候のイタリアやスペインではブドウやオリーブ、果樹栽培が盛んです。

放牧されている牛 北イタリアにて

欧州の中のイタリア

さて、イタリアにフォーカスしてみると、ここまで見てきた通りイタリアは欧州有数の農業国の一つです。実際に地形を見てみると、少し日本と似ているところもあります。国土が南北に長く、地域によって気候帯が異なります。

実際の地形は調べてみると、下記の通り。

平地(pianura):23.2%

丘陵地(collina):41.6%

山地(montagna):35.2%

出典:ISTAT(イタリア国家統計局)公式統計より*2

丘陵地と山地を合わせると、国土の約8割を占めます。よく小麦畑の風景として想像する、アメリカやオーストラリアの見渡す限りの平地をコンバインが行き交うようなイメージとは程遠く、イタリアは限られた平地と丘陵地を使った農業を営んできた国。ただしアルプスの一部を除けば、山も丘陵も比較的なだらかな地形が多く、人の手を根気強く入れることで、古くから農地へと作り変えられてきたのです。

イタリアを旅すると感じますが、丘陵地の斜面をテラス状に切り開き、ブドウやオリーブを栽培する文化が古代から続いている。そして各所にある村にも、今もそれなりの人が暮らしているのは驚くべきことです。実際、イタリア国家統計局(ISTAT)*3の統計によれば人口の38.7%が丘陵地に住んでおり(平地49.2%に次ぐ、山地はわずか12.1%)、丘陵地は決して過疎地ではなく、今も主要な生活圏・生産圏として機能している、これは日本の山間部とはやや違ったところかもしれません。

もっとも、ここまで農地を広げてきたとはいえ、イタリアがすべての農産物を自給できているわけではなく、いろいろな事情でデュラム小麦や軟質小麦など、品目によっては輸入に頼っている一面もありますが、ここでは深入りをせずに、詳しくはまた別の機会に触れたいと思います。

では、イタリアは何で勝負しているのか。ここからが、イタリア農業の面白いところです。

その答えの一つが、DOP・IGP(原産地呼称)制度。

========>>>> 後半へ続く

参考資料:

*1)Eurostat “Performance of the agricultural sector”  https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Performance_of_the_agricultural_sector

*2)ISTAT(イタリア国家統計局)公式統計より, 2013年公表データ, 2011年国勢調査に基づく市町村面積集計” Superficie territoriale e urbanizzazione” https://www.istat.it/non-categorizzato/principali-dimensioni-geostatistiche-e-grado-di-urbanizzazione-del-paese/

 *3) ISTAT「Annuario Statistico Italiano 2022(イタリア統計年鑑)」 https://www.istat.it/storage/ASI/2022/capitoli/C01.pdf

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イタリア最高峰のワイン生産技術者団体”アッソエノロジ(Assoenologi)”の全国大会を訪れるの巻

5月末、アッソエノロジ(Assoenologi)という、エノロゴ、つまり日本語で言う”ワイン用ブドウ栽培・醸造技術者”が集まる全国大会にプレスとして招待させていただきました。なんと、この「あれこれ日記*.。ワイン編」も、日本の読者の皆様への発信の場として認めてもらえたのかな……と、勝手に思っているのであります。今回は、その大会の様子を写真とともにレポートします。

さて、このアッソエノロジは、イタリア国内では最大級のエノロゴ職能団体で、全国に4,000人以上の会員がいるそうです。

そして何よりも、この組織の会長であるリッカルド・コタレッラ氏は、単に「有名な醸造家」というだけでなく、世界的に活躍するエノロゴの一人。

彼は、世界中のワイン造りのコンサルタントとして活躍する一方、生産の立場からだけでなく、消費者にワインの魅力を伝える活動にも力を入れています。毎年開催されるイタリア最大級のワインの祭典「ヴィニタリー(Vinitaly)」でも、自らが関わってきた世界各国のワインを紹介する案内役を務めるなど、その存在感はイタリアワイン界を代表する一人と言っても過言ではないでしょう。

Assoenologi公式サイトはこちら 

さらに「どんな人なの?」と思われた方はこちら     今回の大会で熱いメッセージを語っていたリッカルド・コタレッラ会長です。(Assoenologi公式プレスリリース)

この大会は、毎年イタリア各地で開催している全国大会で、今年の開催地はヴェネト州のコネリアーノ。世界的なスパークリングワイン”プロセッコ”の産地として知られるワインの街が選ばれました。

コネリアーノの風景。なだらかな丘陵がどこまでも続く、私の好きな景色。この街に住んでいたこともあるので、ちょっとノスタルジー。

会場となったのは、このコネリアーノ近郊に位置する、サンタ・ルチア・ディ・ピアーヴェ。中世から続く歴史ある町です。コネリアーノ駅から少し離れています。

この地域は、北イタリアのアルプス・ドロミーティを源流とし、ヴェネツィア近郊を経てアドリア海へと注ぐ「ピアーヴェ川」の流域にあります。古くからこの川沿いは人や物資が行き交う交通の要所だったことから、ヴェネツィア共和国とアルプスの向こうの国々との交易でも栄え、ヨーロッパ各地から多くの商人が集まったそうです。

当時、この一帯では馬や牛、ロバ、羊、豚などの家畜をはじめ、麻や羊毛、布地といった品物が盛んに取引されていたそうで、今では静かな場所ですが、当時はさぞかし活気に満ちていたんだろうな、と、その頃の様子を想像してみました。

サンタ・ルチア・ディ・ピアーヴェ会場。アッソエノロジ全国大会の会場。かつての製糸工場をリノベーションした建物。

 




会場の入り口には、今回のイベントの広告バナーがあり、なんと、この全国大会は今年で79回目を迎えるそうです。

79回目とは!来年で、80回目ですね。

建物の中に入ると、広い空間、そこに関係者が沢山!

正直なところ、会場に来るまではどんな雰囲気の大会なのか全く想像をしてなく、実際に見てみるとその規模の大きさにびっくり。この年次全国大会は3日間にわたって開催され、ワインづくりの専門家であるエノロゴたちの情報交換はもちろん、行政や大学、研究機関、ワイナリー、関連企業、メディアなどが一堂に会する、イタリアのワイン業界を代表するカンファレンスでもあります。

こんなすごい空間にいるだけで、モチベーションが上がります。

来場者はイタリア全国から集まっているので、会場ではさまざまな地域のイタリア語が飛び交っていました。トスカーナらしい話し方が聞こえてきたかと思えば、別の地域のアクセントも聞こえてきて、わ、全国大会なんだな、と実感。

そして、やはりワイン業界でよくあるあるの、男性社会。それでも、登壇者を含め女性の参加者も思っていた以上に多く、女性が活躍する場も普通になってきているのだなと感じました。

私が参加した日は、イタリアワインの国内市場と輸出の現状、ワイナリー経営、ドイツ市場の動向をはじめ、デジタル化やコミュニケーション、新しい醸造技術、さらには気候変動がブドウ栽培に与える影響まで、実に幅広いテーマについて講演や討議が行われました。

そしてその後は、フランスのシャンパーニュと、前回のブログでもご紹介したイタリアの伝統的なスパークリングワイン製法「メトド・クラッシコ(瓶の中で泡を生み出す伝統的な製法)」のテイスティングが行われました。イタリア代表として登場したのは、前回ご紹介した「フェッラーリ」↗︎。実際にフランスとイタリアのワインを飲み比べながら、それぞれの特徴を学ぶという内容でした。

こちらはフランスのワイン。同業者同士で会場で知っている人が多いから、試飲タイムはおしゃべりで会場がざわつく。

お昼は、参加者全員が円卓を囲んでランチタイム。それぞれの立場を超えて情報交換をしたり、新しい出会いが生まれたりと、こうした横や縦のつながりを築く時間も、この大会の大切な役割なのだと感じました。

少し食べた後。。。パイをチーズとバジルのペーストで焼いたもの。後ろに食べかけのパンが写ってしまった。。

そして、地元のワインもずらりと円卓に並びます。ワインだけ飲むのではなく、このようにちゃんとお食事と共にワインを飲むというこのコンセプト、イタリアらしいなと思います。

今回ヴェネト州開催なので、ヴェネト産のワインが沢山並ぶ。

そして午後は、コネリアーノ周辺のワイナリーを訪問。参加者がとても多いため、いくつかのグループに分かれ、それぞれ異なるワイナリーへ向かいました。




私が今回訪れたのは、IL COLLEというワイナリー。この地域を代表するスパークリングワイン「プロセッコ」を造っているワイナリーです。日本でも購入できるみたいです。

セラー見学

ワイナリーはコネリアーノ駅から車で15分ほど、なだらかな丘陵地帯にあります。少し小高いところにある、とても素敵なロケーションです。

4世代続く家族経営ながら、地元の契約農家とも連携し、年間約1500トンものブドウを扱う中堅ワイナリーでもあります。ファミリー経営と聞くと小規模なワイナリーを想像しがちですが、流石この生産量はプロセッコ産地ならではのスケール感!

このワイナリーでは、一部のワインで独自の醸造方法も採用しているとのことで、それによって酸化防止剤(亜硫酸塩)の使用量をできるだけ抑えながら、ブドウ本来のフレッシュな香りや味わいを引き出すことを目指しているそうです。

個人的に一番印象に残ったのは、ブドウは一房ずつ手摘みで収穫される一方、セラーでは想像以上に多くの機械が活躍していること。伝統と最新技術をうまく組み合わせて品質を支えているんですね。

私は普段から飲み慣れていることもあって、誰が何と言おうと、やっぱりプロセッコが好き。

ということで、今回はこのあたりで、Assoenologi全国大会のレポートを終わりたいと思います。

(END)




フェラーリのEV化で思い出す、イタリアの畑を走る「もうひとつのFerrari(フェラーリ)」の話

最近、イタリアのフェラーリが初の高級EV(電気自動車)を発表するというニュースを目にしました。

伊フェラーリ、初の高級EV「ルーチェ」披露 富裕層ターゲットに(2026年5月26日ロイター通信)

車好きの方々の間では、そのデザインや性能についてさまざまな議論が交わされているようですが、私は車に詳しくないので、フェラーリの新型EVのデザインがこうだーというのは疎いのです。

それでも、このフェラーリのニュースを聞き、今イタリアの片田舎にいる身分として一つ思い出すものがあります。

それは、農業機械メーカーとしての「Ferrari」。

多くの人にとって、Ferrariといえば真っ赤なスポーツカー、そして跳ね馬のエンブレムを思い浮かべ、もちろん私もその一人ですが、実はイタリアの農地を走りゆくFerrariというトラクターがあるのです。

【農業機械メーカーFerrariのサイト】https://ferrariagri.com/it-it/

丸文字のロゴと緑のカラーがトレードマークで、あのスポーツカーのイメージとは全然違いますね。

跳ね馬とは「赤の他人」のフェラーリ

ここで多くの人が「車好きなら誰もが知る、あの高級スポーツカーのフェラーリがトラクターを作っているの?」と思うかもしれません。

そこで色々調べると、まったくの別会社でした。

イタリアでは「フェラーリ(Ferrari)」という名前は、日本でいう「佐藤さん」や「田中さん」のようによく見かける苗字です。

農機メーカーのFerrariは、スポーツカーの創業者エンツォ・フェラーリとは別の「フェラーリさん」で、リーノ・フェラーリ(Lino Ferrari)が1954年に創業した会社ということが分かりました。

現在、この農業機械メーカーFerrariの正式な会社は、BCS S.p.Aという企業の傘下で活動をしており、日本でも有名な都市ボローニャがある『エミリア=ロマーニャ州』で誕生しました。ちょっと紛らわしいのが、高級スポーツカーのフェラーリも同じく『エミリア=ロマーニャ州』生まれなんですね。 ちなみにそれぞれ『エミリア=ロマーニャ州』のどこがご出身かと言うと、農業機械メーカーFerrariはレッジョ・エミリア県という西側で、高級スポーツカーのフェラーリはモデナ県という東側になりまる。同じ州で70kmほどしか離れていないご近所さんなのです。

車の形をした、ボトルを横にキープできるテーブル。 

さて、「フェラーリ」という名前はイタリアに多く存在するのが分かりましが、ちなみに、お酒が好きな方なら「フェラーリといえば、あの高級スパークリングワイン(スプマンテ)では?」と思うかもしれません。

実はそちらもまた、全く別の「フェラーリさん」が始めたワイナリー。出身は北にあるアルプス山脈の麓「トレンティーノ=アルト・アディジェ州」のトレントという街で1902年に誕生しました。

Ferrariのスプマンテ(スパークリングワイン) とある試飲会にて。

面白いことに、このワイナリーのフェラーリは、2021年から2024年までF1(フォーミュラ1)の公式スパークリングワインとして、表彰台での「シャンパンファイト」に使用されていました。

自動車のフェラーリとワインのフェラーリ。F1という同じ舞台で名前が並ぶと、「同じフェラーリという名前で、自動車メーカーと商標などでぶつからないのだろうか?」とつい思ってしまいます。でも実際には、両者は別々の「フェラーリ家」が築いたブランドで、長年それぞれの分野で共存しているの興味深いです。

なお、現在はフランスのシャンパンメーカー「モエ・エ・シャンドン」がF1の公式パートナーを務めているみたいです。

そんな華やかな「車」と「ワイン」のフェラーリが世界を魅了する影で、私がどうしても心惹かれてしまうのが、イタリアの農業を文字通り根底から支えてきた、この土っぽい「農機のフェラーリ」です。

田舎の一コマ。カフェの前にある駐車場に、乗用車と並んで停められたトラクター。

(終)